高祖 広季

環境や社会問題への関心から不動産業界へ、そしてその先

 

Q どんな学生時代を過ごされてきたのですか?

幼少時代からラグビーに打ち込んでいたため、実業団入りを目指し日本代表選手も輩出していた福岡大学へ進学しました。ラグビーはとても好きですし、高校時代に九州選抜選手に選んでいただいたこともあって、正直あまり考えずにスポーツを続ける選択をしました。
大学生活は下宿生活で常に部活の仲間と一緒で楽しかったんですが、学校の授業で学ぶことが自分の将来やりたいことに繋がっているという感覚は全くなくて、時間を浪費してしまっているような感覚に陥ることもありました。次第に、この先一般の企業に就職するのか、実業団に入るのか、あるいは全く違う道に外れてみようかと悩むようになりました。
そんな中で、幼少期に友だちと釣りをしたりして遊んでいた河川や用水路が目に見えて汚れていったり、変わっていく姿を見たとき寂しい気持ちになったりして、関心の矛先が環境問題にあると気が付きました。本を読んだり講演会に参加したり、思いつく勉強はやってみたものの、著者の主観や主張が入っているので、本質的なことは専門的に学ばなければ見えてこないと感じて、大学を辞めて他の道に進むことを意識し始めました。そんなときに、たまたま「大学転学」という方法があることを知り、そこから勉強を始めて佐賀大学農学部にて転学することになりました。
転学後、講義の一環でミャンマーのとある地域を対象に持続可能な開発支援を行っているNGOの活動視察で現地に行き、帰国後にはそのNGOでインターンをさせていただきました。NGOが実際にどんなことで貢献してるのかって外から見ると本当に分かりにくいんですが、支援を必要としているのは村とかコミュニティといった集団単位だったり、家族や個人単位だったりします。国や自治体では手が届かないところを担っているわけなので、本当に大事なことはなかなか外へは伝わらないということを学びました。ただ、草の根的な支援は必要だと思う一方で、「もっと問題の原因に対してアプローチできる方法はなんだろうか」とも考えるようになりました。そんなときに、バングラデシュのグラミン銀行や病児保育のフローレンスのように、事業活動として社会問題に取り組む方法があることを知り、起業を意識するようになりました。

Q 「空き家パス」事業の立ち上げまでは、どんな経緯だったのですか?

起業を意識していたこともあり、問題解決のための事業・会社をつくっていくというビジョンを掲げていた会社に、「新規事業開発部」という募集枠で新卒入社しました。ですが、入社後すぐにグループの別会社に出向扱いになり、部署は消滅してしまいました(笑)。今の時代で考えるとあり得ないくらいの過酷な労働環境で大変でしたが、当時の経験があってこその今だと思い感謝しています。その会社を辞めてから不動産業界に飛び込み、2018年にウィントランスの代表になりました。
経営するようになってから、失敗することも多くその月をやっていくのが本当に精一杯な時期もあって、社会貢献なんて考える余裕は正直ありませんでした。でも、「余裕ができたらやりたいことをする」みたいな考え方は貴重な人生の時間がもったいない気がして、今の自分ができる貢献は何だろうと考えました。そこで浮かんできたのが「実は不動産を売れずに困っている人がいるのでは?」ということでした。
自分自身、不動産業界歴が長くなかったですし、相談をもらったところで事業になるのかという不安は大きかったです。ですが、ものは試しだと思い広告を出してみたところ意外と反響が多く、空き家問題の当事者になっている人の声を聞くことができました。空き家の相談を受けるものの、自分たちでも答えが分からなかったので、案件ごとにチャレンジの繰り返しです。何百件とやっていってから少しはパターン化できてきて、より多くの空き家所有者の方の相談に対応できるようになってきました。
空き家に取り組むようになったのは、会社として生き残ることを考えたときに、大手企業がやりたがらないこと、というポジショニング的な視点も前提にありました。「社会性が高い事業ですね」などと言っていただけることもありますが、社会貢献のためにやったというよりも、結果的に貢献できているという表現の方が正しいかもしれません。
どんな事業でも誰かの助けになっていれば貢献になっていると思いますし、その意味ではもっとたくさんの事業を展開してきたいと考えています。

Q 経営者となって、変わったこと、気づいたことを教えてください

会社員を辞めた後は、個人事業主、一人法人の代表を経て、その後ウィントランスの代表となりました。一人のときは、資金調達から新規案件の営業活動、経理まわりなどなにもかもひとりでやっていましたが、順風満帆なスタートでした。
しかし、ひとりで捌ける仕事には限界があります。同業も数多あるなか、勝ち残っていくために組織を大きくしたいと思い採用を急ぎ、新しいスタッフを迎えましたが、なかなか売り上げが伸びず頭を抱えました。また、スピードを重視しサービスを立ち上げたものの市場やニーズの深掘りが足りなかったのか、次第に業務が滞るようになってしまったんです。期待どおりに動いてくれないスタッフや協力先にもどかしさを感じることもありましたね。けれども空気が張り詰めている職場は負のスパイラルを引き起こします。「社長の顔つきが厳しいから、相談は後にしよう」「お客さまからの相談ごとでアドバイスがほしいけれども声がかけにくい」……これでは仕事のスピードが鈍ってしまいます。
上に立つ者として、どういう姿であるべきか。同業他社のサービスに負けないよう、どこに差別化を図るか。さまざまな方法を試し、失敗を重ねながら改善策を探る日々でしたが、いまでは信頼できるスタッフの加入もあり会社は成長し、売買業務を彼らの裁量に任せることが増えてきました。

Q 社長が考える理想の組織とは?

私自身が一歳の子どもをもつ父親ということもありますが、スタッフたちにも家族との時間やプライベートはしっかり確保してほしいと思っています。独身時代は独り身なのをいいことにガンガン仕事をしていたんですが、無理をしすぎるとパフォーマンスは下がります。
弊社のように若い会社がお客さまから信頼を得るためには、「当たり前」のことをきちんとできているかが左右します。それは丁寧な接客や、レスポンスのスピードなどであり、さらにその「当たり前」の基準の高さがサービスの質に影響します。スタッフたちには、その意識を強く持っていてほしいですね。
私はスタッフたちの成長が楽しみなんです。一緒に長く仕事をしたいという気持ちもありますが、私自身がそうだったように「いつか起業をしたい」「自分の市場価値を上げたい」という人に経験という武器を与えられたら、そんな想いをスタッフに語ることがあります。弊社には頻繁な定例行事はありませんが、スタッフの誕生日をお祝いすることや、オフィスでのコミュニケーションを大事にしています。

Q これからの目標や展望について教えてください

経営者というポストで、いまのサービスを大きくし日本の空き家問題解決に貢献したい、そして自身だけの成長を目指すのではなく、与えられたポストの価値を高めるために会社を成長させていきたいですね。
経営者の仕事とは、業界の動向や事業に危機感をもって、次に何をやっていったらいいのか日々考えていくことなんじゃないかと思うんです。
私たちのお客さまの中には、外国の方も多くいらっしゃいます。見知らぬ国で事業を立ち上げよう、日本人が買わない「不便」な場所で何かにチャレンジしようという姿勢に気概を感じますし、大きな刺激をいただいています。観光だけでなく来日して事業を始める外国人は増加傾向にあります。彼らの存在は、多様性をもたらすという意味で、日本経済にプラスに作用する可能性があるんです。ウィントランスでも外国の方々に向けて不動産賃貸や流通のサービスを考えています。

Q 入社を検討されるみなさんに一言お願いします

次の目標に向け、私たちはまだ道半ば。積極的にチャレンジする新しいパワーが必要です。ぜひ私たちと一緒に課題解決型サービスにチャレンジしていきましょう。
私たちは、自分たちが価値を信じる「空き家パス」を軸に、新しい方向を探り続けています。現状に固執せず、時代に合わせて変わり続ける姿勢、求め続ける姿勢、それこそがウィントランスの精神であり、誇りだと思っています。